鉛筆(1)基本の技法

鉛筆デッサンでは、鉛筆の【線】の集合で、【調子】の変化を作り、面を表現していきます。

用紙に対する鉛筆の角度を変えると、線の表情にも変化が出て来ます。
この使い分けは表現の幅を拡げますが、基本的にはほぼ均一な線の集合で面の調子を描写する事が、
かたちを捉えるベースとなります。

デッサンに取り組み始めの頃、線のタッチを残さないように、鉛筆を寝かせて芯の横腹で「塗る」ようにして
調子を入れたり、画面を指やティッシュなどでこすってぼかしを加えたりしたくなる人は少なくありませんが、
こういった技法や、筆圧の強弱によって濃淡の変化を出すような鉛筆の使い方は、
時間をかけた観察によって描き込む鉛筆デッサンには不向きです。

これらの技法は、鉛筆デッサンでは、仕上げに近い段階で、質感の表現などのために使用するものとしておき、
基本的には、鉛筆は【線】を描き、【線の集合】で【面】を描写して行きます。
(輪郭【線】ではありません。色面を線で構成します。)

なぜなら、これが、紙と鉛筆という描画材の特質を活かし、また、長時間かけて観察し
描写していくというプロセスに適した基本の技法だからです。


まず、紙に鉛筆の色が付くとはどういう事かというと、
用紙表面の微細な凹凸にこすれた鉛筆の芯が削れて、粒子を画面上に残すということです。
この関係を、制作完了まで良いコンディションに保つ事が大切です。

つまり、できるだけ紙の表面を傷めずに、できるだけ多くの線を重ねる事ができるような方法を
工夫する必要があります。

画用紙をこすったり、強い筆圧で描いたりすると、画用紙表面の微細な凹凸をつぶしてしまったり、
溝のような跡を残してしまうことになります。
倒した鉛筆の芯の横腹で塗るような描き方にも、画面をこするのに近い作用があります。

用紙表面の凹凸がつぶれてしまうと、鉛筆の粒子の載りが悪くなり、
その部分に線や調子を重ねにくくなってしまいますし、錬りゴムも効きにくくなります。
強い筆圧で用紙に傷をつけてしまうと、やはり練りゴムを入れたり、調子を重ねる際に、
その線が浮き上がってきて、描きにくくなります。
その結果、深い調子の表現や、かたちの修正、細かい描き込みが、難しくなってしまいます。


また、描き始めの段階では、タッチが気になり、ぼかしたくなる事もあると思いますが、
非常に明るい面などの部分的な処理は別として、全体的には、タッチが目立つ状態は、
まだ描き込みが足りない未完成の段階です。

時間をかけて描き込むデッサンでは、多くの線を重ねて、かたちを探り、描写して行きます。
このプロセスでは、様々な角度から面の変化を探る線を重ねる必要があります。

これらの作業の結果として、仕上がったデッサンは、複雑な線の重なりによって、
調子の幅が作り出されており、最終的には、一つ一つのタッチはほとんど感じられない位の密度になっています。

言い換えると、ひとつひとつのタッチが見えなくなるほどに密度のある描き込みができているかどうかが、
完成度の目安のひとつとなります。


デッサンの過程では「明暗を描こう」と考えるのではなく、「対象物そのものを描く」という感覚で、
そのために、【面の向きの違い】が、【明暗の違い】となって見えていることを理解し、
対象物の【かたちを探る手がかり】として、【面の向き】を捉えるために【明暗】を観察する…というスタンスが必要です。
その結果として、微妙な変化のある幅広い階調表現が表われてくる事になります。

重ねた線の密度の差が、グレーの濃淡の表現となっていく描き方は
全体と部分の関係を見ながら、面を探っていく作業に適していると言えます。
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by hiratsukadessan | 2010-10-10 00:38 | デッサン技法